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2017.01.08投稿 2017.01.04更新

町並みの原風景を未来へと継承する

旧日光街道が通る埼玉県越谷市は、江戸時代に宿場町として賑わった街のひとつで、歴史的建造物や街並みが点在している。しかし、残念なことに、再開発などによってその名残は失われつつある。伝統的な町並みの良さを残しながら、新しい街を作るためにどんな工夫ができるのだろうか。

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原風景の「蔵」を今に残し、新たなコミュニティを創出する

「ことのは越ヶ谷」は、2015年度グッドデザイン賞を受賞した、ポラスグループの中央住宅による「蔵のある街づくりプロジェクト」で作られた住宅。2013年、同社が得た宅地開発用地には、数寄屋風の大邸宅、内蔵・米蔵・粕蔵の3棟の蔵、樹齢を重ねた松などが残されていた。改めて調査をしたところ、この建物は「油長」の屋号をもつ油商の店だったことが判明、蔵の建造時期は江戸時代末期と推定された。

「蔵という〝原風景〞を残すことで地域の財産を受け継ぎ、コミュニティ創出への新たな付加価値を見いだしたんです」と、同プロジェクトのトータルプロデューサーとしてデザイン全般を担当した池ノ谷崇行氏は話してくれた。

内蔵を利用してコミュニティスペースを確保

敷地内に4邸の分譲住宅を新築する計画に加えて、状態の良かった内蔵を残して補修し、コミュニティスペースとして地域に開放することになった。

蔵は曳家工法を用い、時には近隣の小学校の児童も参加して敷地内を移動させ、補修は丁寧な手仕事で行われた。いずれも地元の野口組が手がけている。

取り壊した蔵の柱・梁・壁といった古材、大型の御影石、水瓶、灯籠などは2年間保存しておき、数世紀を経た味わいのある風情を未来に継承すべく、外構や室内にさりげなく散りばめた。

新旧の御影石が風情を加える

蔵は、過去に保存した〝もの〞を取り出し、未来へ伝える場所でもある。同プロジェクトでは『蔵とのつながり=未来へ伝えること』を意識した家づくり、街づくりを行った。和モダンをベースにした外観に、街としての一体感を保つ外構や植栽を施している。

蔵のある街並みに風情を加えるのは御影石による舗装だ。蔵の周囲は既存の御影石を、路地にはそれに合わせた既製品を用いて、落ち着いた雰囲気を演出している。

景観へのこだわりは空にも向けられた。地中埋設電線で電柱を失くし、街の情景をさらに豊かにしたのである。

街並みを彩る住まいの外構

敷地内に新築された4邸の外観は、蔵のある街並みへの調和を図りつつも、画一的ではない住まいの個性を主張している。

蔵と並んで入り口に建つ1号棟は、外壁に大谷石調のレリーフを用いて温かみを出した。

各邸の屋根はガルバリウムとし、外観の格子や洗い出し風の駐車スペースなど、全体としての印象を整えた。

池ノ谷氏は「コンセプトである『和』に合った街づくりをするため、住宅や外構の素材はかなり時間をかけて選びました」。

街路灯は日没後に自動点灯する。これは「灯りのいえなみ協定」によるもので、幻想的なライトアップが和の情緒を引き立てている。

地域の伝統をライティングに落とし込む

各邸の門柱に設置した灯りは籠染灯籠(かごぞめとうろう)である。これは、越谷にかつて存在した日本唯一の藍染め技術「籠染め」で使用していた貴重な型を文様に取り入れたもので、形を変えて現代に蘇らせた。

各家の庭に植栽も景観の一部として活用

4邸にはソヨゴやシャクナゲ、ヒイラギモクセイといった景観樹木が植えられている。個人が所有する樹木でありながら、緑豊かな街並みを形成する重要な位置づけでもある。

「ことのは越ヶ谷」では、越谷市で初の景観協定を設定した。項目は外観の形状や色彩、駐車場などの外構、緑化の基準などである。緑化については、景観樹木を住民が自発的に維持管理することで潤いのある街づくりを目指す。また、こうした共同作業を通じてコミュニティ形成を図り、地域に対する愛着や住民同士の絆が育まれ、良い住環境の維持につながっている。

コンセプトの異なる和の住まい4邸

住宅4邸は設計コンセプトがすべて異なり、「坪庭のある家」「縁側のある家」「茶室のある家」「土間のある家」の4つが建てられている。写真は「縁側のある家」のリビングにつながる縁側。アラカシの木陰と、シロバナトキワマンサクの生垣に囲まれ、光と風を感じる庭を作り出した。

「坪庭のある家」の坪庭は、外部とは竪格子で隔たれ、シダレモミジと水盤、敷かれた白那智石が凛とした印象をつくる。昼は陽光、夜は室内からの明かりで異なった表情を見せてくれる。

「茶室のある家」の庭全景。竹垣を背景に奥はウメ、手前にアセビを植え、和の静謐さを醸し出す。

「土間のある家」。土間から見た坪庭。ゴヨウマツを植え、脇には既存の灯籠を据えた。壁には蔵の古材のスギ板を張り、いにしえの情感を斬新なデザインとして仕上げた。奥の照明は籠染灯籠。

古材も再利用して、伝統を残していく

蔵で使われていた石や瓦、水瓶などを再利用した。既存の水鉢を配置し、アクセントに置いた鬼瓦もやはり古材を再利用したもの。経年で磨かれた風情が侘び寂びの世界を引き立てている。土間から見える坪庭には、和を感じさせるマツを植え、土間の壁には取り壊した蔵から残した古材のスギ板を張っている。

蔵とのつながりは、新しい住まいの中にも受け継がれ、新しい歴史を紡ぐことだろう。


引用元/『HomeGarden&EXTERIOR vol.3』より
写真提供/ポラスグループ 中央住宅

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